社内恋愛と同棲を同時進行した男女が壊したルール

半蔵門に自社ビルを持つTOKYO FMが西新宿のKDDIビル31階にあった時代、20代後半だった私は放送作家としてデビューした。初めて持った番組は土曜日の朝放送の「とうきゅうミュージックプラザ」。歌手の森山良子さんと声優の大山尚雄さんが交互にモノローグで語り、途中に音楽が入るラジオドラマである。何年続いたかは覚えてないけれど、同じタイトルのコンサートツアーが年に2回行われ、東急が同時進行でスポンサーについた企画だった。

 

そのときに書いた原稿が物置のダンボール箱から見つかった。TOKYO FMではなくFM東京のロゴが入った原稿用紙で、1980年代のものである。

 

 

内容はオムニバス形式のラジオドラマで、いろんな男女(私とあいつ)の悲喜こもごもな物語を綴ってきた。下手な文字を見せるのは恥ずかしいので、中身を書き写してみる。

ルームメイトはハズバンド

曲1:「Dannys Song(ダニーズ・ソング)」(ブラザース・フォー)

私:パーコレーターがリズミカルな音をたてて、トーストの香ばしい匂いがしてくると、私たちの忙しい1日の始まりです。新聞を小脇に抱えて走り出すあなたの後から、ドアに鍵を閉め、時間を気にしながらも、ゆっくり駅に歩いて行きます。あなたがホームにいないことを確かめてから、ひと電車遅れて、オフィスに向かいます。

あいつ:タバコに火をつけて、デスクの整理をしていると、君が出社してくる。座るのはちょうど僕の向かいの席。”おはよう”なんて、家では口にも出さない言葉をかけられて、ちょっと戸惑い気味さ。僕たちが一緒に暮らしていることは、オフィスではトップシークレット。こんな生活を始めてからもう1年になるのか。君のブルーのセーターも2度目の同じ季節。

 

曲2:「CLOSE TO YOU(遥かなる影)」(カーペンターズ)

私:となりの部屋に、1年遅く入社してきたあなたが越してきたのは、全くの偶然でした。チャイムの音にドアを開けると、驚きに目を丸くしたあなたが、ケーキの箱を持って立っていたっけ。2人がまだ別のセクションにいた頃です。それから数カ月、気が付いたら、あなたの部屋のほとんどが私の部屋に引越していました。そして、オフィスの机も私の真向かいに・・・。

あいつ:洗濯と食事の支度は君の役目。掃除と風呂をわかすのは僕の役目。2人の給料は折半。お互いのプライバシーを侵害しない・・・。君が作ったルールさ。いつだって僕たちはフィフティフィフティ。不満はあったけど、ルームメイトとしては先輩に1歩譲ったまま。

 

曲3:「Baby I’m – a Want You(愛の分かれ道)」(ブレッド)

私:風邪をひいて熱を出した私が夜中に目をさますと、あなたは慣れない手つきで氷を砕いていました。次の朝、指に絆創膏を巻いて出かけるあなたの背中に、初めて”ありがとう”を言いました。

あいつ:強がりの君も、寝顔はあどけない少女に戻る。不思議だね。恋なんていつかは終わると思いながら、こうして暮らしてきたけど、君を守りたいと思う気持ちが満ち潮みたいにあふれてくるんだ。君もあの日以来、窓の外を見て溜息ばかりついている。

私:ケンカしたわけでもないのに、何日間か、お互い無口になりました。考え込んだあげく、2人同時に口にした言葉は”結婚”でした。

 

曲4:It’s Only Love(スティーブン・ビショップ)

私:少し遅れてオフィスを出て、ケーキを買って帰ります。チャイムを鳴らして、あなたがドアを開けたら、今度は私があなたの心に引越しのあいさつをする番です。これからは100%お世話になりますって。

あいつ:日曜日に、2人で教会を探しに行こう。白いドレスを着た君と並んで写真を撮って、みんなに配って歩くんだ。”来年には3人になります”と書き添えて。

 

曲5:「The Right Thing to Do(愛するよろこび)」(カーリー・サイモン)

 

こんなオムニバスドラマをせっせと書き綴った自分はと言うと、2回結婚して2回離婚。どちらも長続きしなかった。同棲した恋人も3人いて、そのうちの1人、目黒区自由が丘で暮らした相手については「離婚のあとは同棲ブルー、放蕩娘に訪れた人生の転機」に書いた。小説どころではないノンフィクションのドラマが自分の身に起こりすぎて、全部書き終えるまでには1年ぐらいかかるかもしれない。