こっちとそっち|小学校の入学式で一目惚れがバレた記念写真
私の父はとんでもない女好きで、15年前に脳卒中で倒れたときには8人の愛人がいた。女癖の悪さがいつから始まったかは、祖母に言わせれば「いったい誰に似たんだろうね?」。家系にはいないタイプだったそうだ。ルックスと頭脳が良く、営業トークも上手なおかげで、20代にして銀行の支店長になれたのだけど、家庭運は薄い人だった。母は結婚した相手を間違えたと気付いたときには、もうお腹の中に私がいて、次からこの男の子孫 […]
私の父はとんでもない女好きで、15年前に脳卒中で倒れたときには8人の愛人がいた。女癖の悪さがいつから始まったかは、祖母に言わせれば「いったい誰に似たんだろうね?」。家系にはいないタイプだったそうだ。ルックスと頭脳が良く、営業トークも上手なおかげで、20代にして銀行の支店長になれたのだけど、家庭運は薄い人だった。母は結婚した相手を間違えたと気付いたときには、もうお腹の中に私がいて、次からこの男の子孫 […]
幼稚園時代を過ごした六角橋の借家は十字路の角にあり、今思えば泥棒が入りやすそうな隙だらけの家だった。留守番をする祖母と私はいつも茶の間から往来を眺めていたけれど、向こうからもこちらが丸見え。働きづくめだった父母の帰りは夜遅いので、年寄りと子どもしか住んでいない不用心な家に見えたことだろう。愛媛の穏やかな地から引越してきた私たちには分からない都会の盲点だ。 ある晩、玄関の引き戸がガラガ […]
今はミュージアムでしか見られないベージュ色の路面電車。横浜市電という一両の電車に乗って、私は祖母と一緒によく高島屋まで行ったものだ。 『ALWAYS 三丁目の夕日』のように、つつましやかな暮らしだったけれど、デパートに行くというイベントは我が家のハレの日だった。車掌さんが紐を引っ張ってチンチンと慣らすベルの音に、心を弾ませて10分ほどの旅を楽しんだ。 愛媛県から東京に夜逃げしてきた私 […]